知られざるワイン県、茨城。土地の恵みを一杯のワインで味わう旅へ。

ワイナリー特集

「日本ワイン」と聞いて思い浮かぶのは、山梨県や長野県。
ワイン用のぶどうは、雨が多く湿度が高い日本では栽培が難しいとされていたものの、農業技術の発展により質の高い日本ワインが増えてきました。

その中で密かに存在感を放ちつつあるのがなんと「茨城県」なのです。その数、なんと全国で6位。
ワインの産地として名高い上位5県に肩を並べるほどワインの産地として注目の地域です。

今回は、つくば市と常陸太田市にあるワイナリーをご紹介します。
ワインの味わいを語るうえで欠かせないのが「テロワール」という言葉。
これは土壌や気候など、ぶどうが育つ環境のことで、土地の個性がそのまま反映されるというフランス語のこと。
いわば、地域を丸ごと味わえる存在を指す言葉。茨城県を自分の足だけでなく、舌でも楽しむ。
そんなワインの魅力をお伝えしていきます。

つくばワイナリー

つくばワイナリー4

筑波山と宝篋山の雄大な自然を望むワイン畑。まるでフランス・ロワールの内陸部に来てしまったかのような広大な景色が広がっています。
2017年12月に「つくばワイン・フルーツ酒特区」の認定を受け、果実酒製造免許を取得するための基準が緩和されたことにより、ワイナリーが増えつつあるつくばで、特区制度を使用することなく先立ってワインの製造を始めていたのが「つくばワイナリー」です。

つくばワイナリー1

ワインづくりの始まりは2012年に遡ります。
住宅分譲地だった土地を引き受けた際、前年に起きた東日本大震災で行き場をなくしていたぶどうの苗を譲り受けたことからぶどうづくりをはじめました。
試験的に100本の苗から植え始めたところ、この土地と相性がよく今では7000本にまで広がっています。
そして、2019年には畑に隣接した場所に醸造所を構え、栽培から醸造まで一貫したワインづくりをおこなっています。
現在、つくばワイナリーではスタッフを含め、計8名で運営しています。

つくばワイナリー8左から栽培と醸造を担当している明間さん、大浦主任、広報の高橋さん、大塚勝ワイナリー長

今回、ワイン畑や醸造所、併設された販売所を統括するワイナリー長の大塚勝さんにワイン作りの魅力とこの場所の楽しみ方を案内していただきました。
つくばワイナリーでは現在、山梨のオリジナル品種である「富士の夢(山葡萄×メルロー)」「北天の雫(山葡萄×リースリング)」のほか、マルスラン(カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュの交配品種)やシャルドネといったヨーロッパ品種を含む8種類のワイン用葡萄が育てられています。

ワインづくりはぶどうづくり。
そう言っても過言ではないほど、ワインの味わいを決めるのはぶどうそのものです。
そして、そのぶどうの品質を左右するのが1つの要因は天候です。
雨が続いてしまったり、水捌けが悪い土地ではぶどうが水分を多く含んでしまい、糖度やアルコール度数に影響が出てしまうといいます。
しかし、つくばワイナリーのある筑波山山麓は花崗岩質の土壌と山から吹き下ろす寒冷な風が特徴のエリアです。
その二つの要素が適切な水分量を保ち、ぶどう栽培に理想的な環境をつくりだしています。

土地の条件だけでなく、日々の手入れもぶどうの質を大きく左右します。
なかでも欠かせないのが剪定作業。収穫量や樹の成長をコントロールするために不要な枝を切る作業は、質の良い果実を実らせるための重要な作業となっています。
剪定の良し悪しによって、翌年の収穫量やぶどうの質が決まるといいます。
ぶどう栽培においては「弱く健全に」育てることが大切とされ、剪定はまさにそのための土台づくり。
剪定した様子を見れば誰がやったのかは一目瞭然なほど個人の力量が問われる繊細な作業だといいます。

つくばワイナリー2収穫時期のタナ

つくばワイナリーでは、大きく分けて2つのシリーズを展開しています。
ひとつは、日本で生まれた品種「富士の夢」や「北天の雫」などを使った「TSUKUBA シリーズ」。
もうひとつは、西洋品種のぶどうを使い、伝統的なスタイルで仕上げる「TWIN PEAKS シリーズ」です。

なかでも注目したいのが、「TWIN PEAKS シリーズ」の「TWIN PEAKS BLANC」。
「シャルドネ」「プティマンサン」「アルバリーニョ」の3品種をバランスよくブレンドした白ワインで、ふくよかな酸味と柑橘系の風味、さらに紅茶やハチミツを思わせる香りが特徴。

日本ワインコンクールでは3年連続で受賞し、2025年には「TWIN PEAKS BLANC 2024」が、茨城県産ぶどうを100%使用したワインとして初めて銀賞を受賞しました。

つくばワイナリー5

つくばワイナリー6

販売所の様子。取り扱うワインがずらりと並ぶ。

つくばワイナリーが特に力を入れているのが、複数の品種を組み合わせて醸造する「ブレンドワイン」です。
「オープン当初は一つの品種でワインを醸造する単一ワインをメインとしていましたが、栽培する苗が8種類に増えたことにより、味の表現の幅が広がりました。
どんな香りがいいか、どんな味わいにするか。その年に採れたぶどうの状態に合わせて、試行錯誤しながら醸造しています」

醸造主任の大浦さんは「同じ畑、同じ品種でも、その年の天候や生育状況によってワインの出来は変化します。
そのため、毎年同じ配合にするのではなく、その年のぶどうと向き合いながらブレンドの割合を調整していくことが面白さであり、それまでに無かった新しいワインの味に出会えることが魅力です」とのこと。

決まった味を再現するのではなく、その年の「おいしさ」を探していくことは作り手としての醍醐味なのかもしれません。

つくばワイナリー7醸造所の様子

つくばワイナリーでは広い敷地を活用し、新酒のお披露目会や、ワインとともに楽しめるイベントも開催しています。

さらに醸造所とワイン販売所の目の前には開放的な広場があり「ただワインを買いに来るだけではなく、筑波山の景色と空気を感じながら、ピクニックをしたり、散歩をしたり。癒されに来てほしい」と話す大塚さん。

他にも広い道路が整備され、車で訪れやすいのも魅力のひとつ。
ドライバーやお酒を飲まない人にも楽しんでもらえるよう、最近では自社のワイン用ぶどうを100パーセント使ったジュースの製造・販売も始めたとのこと。

ワインを飲む人も、飲まない人も。そして大人も子どもも。
それぞれの楽しみ方で、この場所を過ごすことができるのがこのワイナリーの魅力なのではないでしょうか。

今後もさまざまな表情を見せてくれそうなつくばワイナリーのワイン。
つくばの土地の空気感も丸ごと楽しむことができるこの場所にぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

店舗情報

つくばワイナリー3

つくばワイナリー

住所
茨城県つくば市北条字古城1162-8
営業日
月〜金 13時〜17時/土日祝 10時〜17時
定休日
年末年始

つくばワイナリー ホームページ

 

武龍ワイナリー

武龍ワイナリー1

茨城県で「食用ぶどう」といえば、常陸太田市。
中でも阿武隈山地の南端に位置する常陸太田市瑞龍町には、ぶどう園が数多く存在しています。
旬の時期には直売所を求めてたくさんの人々が買いに訪れる地域となっています。
そうした賑わいを見せる一方で、ぶどう農園が減少しているという地域課題も存在しています。
約30年前には100件ほど存在していたぶどう園も、今では後継者不足などを理由に約50件ほどに減少してしまいました。
休耕地となったぶどう畑が増加していく中で、その土地を利用し、新たにワイン用のぶどう栽培を始めたワイナリーがありました。
それが今回ご紹介する「武龍ワイナリー」です。

武龍ワイナリー8代表の山口景司さん(写真左)と醸造責任者の成田楓さん(写真右)

「武龍ワイナリー」は代表の山口景司さんを含む3人で営むワイナリー。
常陸太田市が地元という山口さんは、家業であった卸問屋「合名会社山口」を継いでから、地域と連携したプロジェクトを進めてきました。
こうした活動の中で、自分でも「ものづくり」をしてみたいと思い、2017年3月にワイン用のぶどう栽培を始めたそうです。

ぶどう農家の減少や耕作放棄地の増加という地域課題に加え、ぶどうの名産地として知られているにもかかわらず、ワイナリーがありませんでした。
この二つの状況が重なったことが、常陸太田生まれのワインをつくる構想のきっかけとなったといいます。

農業は右も左もわからないまま始めたという山口さん。
しかし、周囲にはぶどう栽培のプロフェッショナルがいます。
農家の方々に助けられながら、ぶどう栽培を始め、今では他の醸造所に原料として販売できるほどになったといいます。
そのため、醸造を委託して自社のワインを作ることもできましたが、自分の会社の名前を冠にしたでワインを作りたいという想いがあった山口さんは、その後、醸造所も作り始めます。
栽培から醸造まで、全て自社で完結するために準備をしていたところに醸造責任者である成田楓さんに出会います。

同じく常陸太田市出身の成田さん。
体を動かすことが好きだったということから農業高校へ進学し、そこで農業の魅力に惹き込まれていきました。
さらに学びを深めるために農業大学校に進み、ぶどうの栽培を専門的に学びます。
ぶどうを選んだのは二つの理由から。
一つは、出来上がったらすぐに食べられるものを作りたかったこと。
もう一つは、小さい頃から馴染みのある存在だったということです。
就職先を探している中でたまたま出会ったのが山口さん。
たった1人でぶどうの栽培と販売をおこなっている姿に感動し入社を決めたといいます。

武龍ワイナリー4収穫作業中の成田さん

そうした出会いを経て、2022年に武龍ワイナリーは誕生しました。

現在、栽培しているぶどうは7種類。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シャルドネといった品種をメインに育てています。
この土地の特徴として、阿武隈山脈を抜けてカラッと乾燥した風が通り、大洗方面からも海風が吹くため風通しがよく、品質を左右する水分量がほどよく保たれやすく、同じくワイン作りが盛んなつくば市と比べると、10日間ほど生育が遅いなど、適度な気候が広がるエリアとなっているそうです。
一つのぶどうを育てるには少なくとも3〜4年ほどかかるそうで、常陸太田の土地にはどの品種が合うかを現在でも試行錯誤しているところとも話してくれました。

取材当日は、旬な時期ということもあり、たくさんのぶどうが実をつけている畑を見学させていただきました。
食用のぶどうは木々の間隔をあけて栽培されるのに対し、ワイン用のブドウは密度高く栽培するのが特徴。
お互いに競合させることで、実を小さく凝縮させるためだといいます。

赤ワインは皮と実を一緒に潰して発酵させることで完成します。
そのため、ぶどうの皮と実の割合を適切に管理することで品質の高いワインの製造ができるとのこと。
「いつも畑に出るとぶどうを食べて味わいを確認しています。
収穫前は糖度があるので甘みが強く感じられますが、発酵するとアルコールに変化するので、ワイン農家はその甘みがない状態を想像することで完成するワインの味を見極めているんです。」と語る山口さん。
実際にぶどうを口にしながらその味わいを確かめる姿からは、ワインづくりへの真摯な思いが感じられました。

武龍ワイナリー5収穫されたシャルドネ。実が透き通って中が見えるものが収穫のタイミングだという。

武龍ワイナリーでは主に単一品種のワインを取り扱っています。
その理由は「品種ごとの香りを楽しんでほしいから」とのこと。
常陸太田のぶどうの味を表現するためにも、品種ごとに楽しめるワインを目指しているそうです。
中でも自社栽培のぶどうを使用したワインは「瑞龍」という名前で販売をしていて、店舗販売やネット販売だけでなく、県内外のレストランなどでも楽しめるとのこと。

そのほか、常陸太田の食用ぶどうを使用した「いばらきワイン」も生産。
傷がついたことなどを理由に出荷できなかったぶどうを廃棄せず、ワインとして再活用することで地域資源を循環させていく仕組みをつくっています。
そのため、普段の食事にも気軽に合わせやすい価格となっているのも魅力。
水戸ホーリーホックや茨ひよりとのコラボレーションや、県内のスーパーで購入することができるなど、日常的に楽しむのにぴったりのワインとなっています。

武龍ワイナリーの「やさしいワイン」の秘密をうかがうと、「5年前に女性の醸造担当が入社しました。仕込みの工程として赤ワインの色素や渋み成分であるタンニンを抽出するために混ぜる作業があるのですが、丁寧な力加減で混ぜてくれているせいか、柔らかくやさしい味わいになってくれているんだと思います」
ワインづくりにおいて「基本に忠実で素直なワイン」をつくることが何より大切という山口さん。
繊細で優しい味わいのワインを実現するために、土台を大切にし「武龍ワイナリー」らしいワインを製造している心意気が感じられました。

武龍ワイナリー6発酵中のワイン。この樽の中のワインを混ぜていく。

武龍ワイナリー7ワインを熟成する樽。樽の香りも加わることで違う表情を見せる。

武龍ワイナリー2販売所の様子。これまで手がけてきた商品が所狭しと並んでいる。

この時期、武龍ワイナリーでは週末に収穫のボランティアを募集しているのだとか。
畑の隣にある古民家で休憩しながらの作業や、常陸太田の自然を存分に楽しみたい方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

ちなみに「武龍ワイナリー」という名前は、常陸太田市に龍にまつわる物語が多いこと、そして地域に根付いたワイナリーとして、この土地の物語とともに歩んでいきたいという思いが込められているそう。

山口さんはワインづくりを続ける理由について、「自分がこの土地に生まれ、ここで生活をしているからということもありますが、ぶどうは、土からの栄養や太陽の光、空から降ってくる雨など、この場所の自然の恵みをたっぷりと吸収して育つので、ある意味、土地そのものなんです。」と語ります。

ワインは他のどんなお酒よりも土地の個性を丸ごと感じられる飲み物。
この常陸太田を大切に想う人が作り、届けることで、この土地ならではの個性をそのまま詰め込んだ一本が生み出されるのかもしれません。

店舗情報

武龍ワイナリー3

武龍ワイナリー

住所
茨城県常陸太田市瑞龍町1351-2

営業日時
金曜日・土曜日・日曜日
10時〜16時

武龍ワイナリー ホームページ

もっと茨城のワインを楽しむために!

取材を通して印象的だった話があります。
それは「地元の食材と地元のワインを合わせる」ことということです。
ワインは「ペアリング」といって、料理と組み合わせて楽しむことが基本にあります。
高級なレストランでのペアリングをイメージする方もいるかもしれませんが、ヨーロッパでは日常的におこなわれていること。
ワインが生まれた古代ローマの時代に、安全な水を手に入れられなかったため、人々は水の代わりにワインを飲んでいました。
そのため、ワインは昔から食事とともにあるものだったのです。
さらに、ワインと料理を合わせることでお互いの味を引き立たせ、それぞれを単体で味わうときより何倍も美味しく感じることができます。

ポイントとしては産地を合わせること。
古代ローマ時代には今のように交通網が発達していないため、地産地消が基本。
その土地で採れた食材とともに食卓を囲んできたという歴史があります。
だからこそ、ワインと料理も産地が近い方が相性がいいのです。

茨城県は自然の恵みが詰まった食材が豊富にある県。
ワイナリーのある地域でつくられた食材とワインを合わせて食事をすることで、より深い魅力に触れることができます。

今回紹介したワイナリーだけでなく、県内にある他のワイナリーにも興味をもっていただき、茨城の持つたくさんの魅力に触れていただたら嬉しいです。
きっと茨城の新しい一面に出会えますよ。

その他の茨城県ワイナリー

木内酒造鴻巣の蔵
(那珂市鴻巣1257)

日本酒「菊盛」の伝統を守りつつ、世界的な「常陸野ネストビール」やワインも醸す、茨城県の革新的な酒蔵です。

DomaineMITO 洗井隈醸造所
(水戸市全隈町1416-1)

「身近で気軽に飲めるプライベートワイナリー」を掲げる水戸市森林公園内にあるの醸造所です。

Tsukuba Vineyard 栗原醸造所
(つくば市栗原2944-1)

自社畑のブドウを100%使用し、看板の「小公子」や「プティマンサン」など新鮮でフルーティーなワインを醸す醸造所です。

ビーズニーズ・ヴィンヤード
(つくば市臼井2534)

筑波山麓の花崗岩土壌で垣根仕立てでのワイン用ブドウを栽培しワインを製造、販売しています。

麦と葡萄 牛久醸造所
(牛久市牛久町531-3)

茨城県章のバラのつぼみをロゴに掲げ、日本ワインの歴史深い牛久でぶどう産地の再興を目指す醸造場です。

さかいまちファーム&ワイナリー
(猿島郡境町1466-2)

2021年に醸造を開始した、境町出身の女性ソムリエが醸すワイナリー。特産野菜に寄り添う優しい味わいが特徴です。

 

  • 【ID】P-2311
  • 【更新日】2026年10月23日
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